遺伝性大腸がん

 

遺伝性大腸がんとは

大腸がんに罹患した方のなかには、血縁者にも大腸がんに罹患した方がいらっしゃる場合があります。その原因として、

  • 生まれ持った遺伝子が関与している遺伝的要因
  • 生活環境などが関与している環境的要因
  • 偶発的

といったものが考えられますが、どのような原因であるかにかかわらず、血縁者内、特に血縁関係が近い方の中で大腸がんに罹患した方が複数名みられる場合【家族性大腸がん】と考えます。

この原因の中で①の遺伝的要因が強く関わっていると考えられる場合に【遺伝性大腸がん】と考えられ、大腸がん全体の約5%を占めると考えられています。一口に遺伝性大腸がんと言っても複数の種類(後述)がありますが、特徴として以下のものが挙げられます。

  • 血縁者に大腸がんに罹患した方がいる
  • 若くして大腸がんに罹患した方がいる
  • 複数回大腸がんに罹患した方がいる

血縁者に大腸がんや、その他の関連する臓器のがん(例:子宮内膜(子宮体部)がん、胃がんなど)に罹患した方*1がいる

*1:一人で両方のがんに罹患した方、あるいはお一人が大腸がん、お一人が子宮内膜癌に罹患など

このいずれかに当てはまる場合、遺伝性大腸がんが考慮されますが、当てはまると必ず遺伝性大腸がんということではありません。反対に、これらの条件に当てはまらなくとも遺伝性大腸がんを考慮する場合もあります。

遺伝性大腸がんの場合、大腸がん以外にどの臓器のがんに罹患しやすいのかということがわかります。そのため、個別に対応した特別な検診を受けていただくこととで、がんの早期発見・早期治療につなげることを目的としています。

 

遺伝性大腸がんの代表的疾患

 

①家族性大腸腺腫症:Familial Adenomatous Polyposis(FAP)

※家族性大腸ポリポーシスと呼ばれる場合もあります

  • 原因遺伝子:APC
  • 20,000人~10,000に1人の頻度と考えられています。
  • 遺伝性大腸がんの1つで、大腸に数百~数千のポリープ(腺腫)が生じる疾患です。ポリープの数により古典型、軽症型にわけられ、さらに古典型でも密生型と非密生型に分けることがあります。
  • ポリープを放置するとほぼ100%の確率で大腸がんに罹患するため、大腸がんになる前に大腸の切除が行われています。

A. FAPの随伴病変

B. FAPの治療

家族性大腸腺腫症と診断された場合、大腸がんを発症する前に大腸切除を行うことが推奨されています。このことを“予防的大腸切除”と呼びます。手術の方法としては以下のものがあります。

1.大腸全摘・回腸人工肛門造設術(TPC)

肛門を含めて大腸のすべてを摘出する方法で、大腸がんの完全予防につながります。肛門筋を摘出しているため、排泄のための人工肛門を作る必要があります。

2.大腸全摘・回腸嚢肛門(管)吻合術(IPAA)

肛門を残し、大腸の大部分を摘出する方法です。肛門の残し方により呼び方が変わります。術後は一時的な人工肛門を作成しますが、その後人工肛門を閉鎖し、肛門からの排泄に移行する方が多いです。

ただし大腸を完全に取り切った手術ではありませんので、大腸がんを発症する可能性がわずかに残ります。

3.結腸全摘・回腸直腸吻合術(IRA)

直腸を残し、大腸の大部分を摘出する方法です。排便機能は良好ですが、直腸がん発生の可能性が残ります。

 

大腸全摘・回腸嚢肛門(管)吻合術(IPAA)が標準的術式ではありますが、大腸にすでに発生しているポリープの多さやポリープの密生度合、患者様の現在の状況などを考慮しながらの選択となります。

②MUTYH関連ポリポーシス(MAP)

  • 原因遺伝子:MUTYH
  • 遺伝形式:常染色体劣性遺伝

→血縁者に症状が表れないことが多いです。

  • ポリープ数は100個未満のことが多いですが、100個以上の場合もあります。
  • 大腸以外の病変として、十二指腸腺腫、十二指腸がん、卵巣がん、皮膚がん、膀胱がん、乳がんが増加傾向にあるといわれています。

 

 

 

 

リンチ症候群:Lynch Syndrome

  • 原因遺伝子:MLH1MSH2MSH6PMS2EPCAM
  • 大腸がんをはじめ、子宮内膜(子宮体部)がん、胃がん、卵巣がんなどさまざまな臓器のがんに罹患する可能性が、リンチ症候群ではない方と比べて高い特徴があります。
  • 以前はHNPCC(hereditary nonpolyposis colorectal cancer)と呼ばれていたこともあります

遺伝子診断について

遺伝学的検査*1は、採血で行うことができます。

血液中に含まれる白血球からDNAを抽出し、候補となる遺伝性大腸がんの原因遺伝子に、大腸がんと関連するような遺伝子の変化があるかを調べます。

遺伝学的検査は、基本的には“対象とする疾患の関連がんに罹患した方”であり、中でも“遺伝学的検査で遺伝子変異が検出される可能性が高いと考えられる方”から行います。この方で遺伝子変異が認められた場合(遺伝学的検査陽性)、血縁者の方も同じ遺伝子変異をお持ちであるか検査をすることができます。

遺伝学的検査の目的は、遺伝性腫瘍であるかどうか、遺伝性腫瘍の場合はどの臓器にがんが出来やすいのかということを理解し、それに対応した特別な検診を受けることとで、がんの早期発見・早期治療につなげることです。

*1:一般には遺伝子検査と呼ばれていますが、生まれ持った遺伝子の変化を調べることを遺伝学的検査と呼んでいます。

①当科で実施可能な遺伝学的検査

当科では、埼玉医科大学総合医療センター倫理審査委員会および、埼玉医科大学倫理審査委員会から承認をうけ、以下の遺伝学的検査を研究*で行っています。

②その他当科の研究で解析可能な大腸がんが関連する遺伝子

AKT1, PIK3CA, SDHB, SDHD, BRCA1, BRCA2, ENG, MLH3, MSH3, PMS1, MBD4, TGFBR2, RPS20, CHEK2, RAD52, BRIP1, FAN1, FANCC, FANCE, REV3L, SMRCA4, BARD1, NFKBIZ, XRCC4, EPHX1, CDKN1B, BUB1, BUB3, BUB1B, GALNT12, ATM, XAF1, RBL1, RNF43, NTHL1, AXIN2, CNTN6, SCG5-GREM1, MCM9, SMAD9

*研究課題名

  • 遺伝性消化管腫瘍症候群(ポリポーシス及び関連癌を含む)における原因遺伝子の同定と新たな原因候補遺伝子の探索ー次世代シークエンシング技術を利用してー
  • 遺伝性大腸癌の遺伝子変異の様態と形質発現との関連性の解析による臨床応用の可能性の研究

またリンチ症候群の遺伝学的検査に関しては、

国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)臨床ゲノム情報統合データベース整備事業

ゲノム創薬・医療を指向した全国規模の進行固形がん、及び、遺伝性腫瘍臨床ゲノムデータストレージの構築

の一環として行っています。

③遺伝学的検査でわかること・わからないこと

わかること

  • 研究対象とする遺伝子に生まれつきの変化があるか、もしくはないか
  • 特定の遺伝子の変化が見つかった場合、今後の適切な健康管理方法

わからないこと

  • 研究対象とする遺伝子に生まれもった変化がなかった場合、あなたの(もしくはご家族)のご病気がどうして起こったのか
  • 研究対象とする遺伝子以外の遺伝子に変化があるかどうか(例えば家系内で高血圧や糖尿病などが多いとなった場合、それらに関連するような遺伝子の変化があるかどうか)
  • 遺伝子の変化が見つかった場合、本当にがんなどの症状が生じるか、何歳で症状を生じるか
  • 特定の遺伝子の変化が見つかっている家系内で、生まれる前のお子さんに遺伝子の変化が受け継がれているかどうか(出生前診断)

④遺伝学的検査を希望される方へ

遺伝学的検査をご希望の方は以下までご連絡ください。

埼玉医科大学総合医療センター
消化管・一般外科医局

049-228-3619
9:00~17:00(土日祝日を除く)
担当:認定遺伝カウンセラー 構(かまえ)奈央

医療関係者の方、患者様どちらからでもお問い合わせいただけます。
当院にお越しいただく際には、臨床情報を確認するために紹介状をお持ちいただけますと幸いです。
遺伝学的検査の前には、遺伝カウンセリングを行い考慮される遺伝性腫瘍や今後の対策についてお話いたします。当科の研究で行う遺伝学的検査およびそれに伴う遺伝カウンセリングの費用は発生いたしません。

遺伝カウンセリング担当医師:石田秀行 (毎週水曜午前)
岩間毅夫  (毎月第1、第3水曜午後)

 

遺伝に関する解説

①常染色体優性遺伝とは

私たちがもつ遺伝子は、2つで1組になっています。
このうちの1つが父親から受け継いだ遺伝子、もう1つが母親から受け継いだ遺伝子です。同様に、あなたがお子さまに遺伝子を伝えるときも、2つある遺伝子のうちどちらかを伝えるということになります。
常染色体優性遺伝とは、2つある遺伝子のうち、生まれつきどちらか一方の遺伝子に変化があることで、ご病気がおこるものです。
遺伝性大腸がんの場合、こちらの遺伝形式をとるものが大多数です。
遺伝性大腸がんの原因となる遺伝子変異をお持ちの場合、遺伝子変異のあるものがお子さまに伝わるか、遺伝子変異のないものがお子さまに伝わるかのどちらかになり、50%の確率でお子さまに伝わるということになります。ただし、それぞれのお子さまに対して毎回50%の確率になるため、お子さまがお二人の場合、必ずどちらかが遺伝子変異を受け継ぐということではありません。

②常染色体劣性遺伝とは

常染色体優性遺伝とは異なり、2つある遺伝子の両方に、生まれつき遺伝子変異があることでご病気がおこるものです。
この場合、父母両方から遺伝子変異を受け継いでいる可能性が高く、ご両親も同じ遺伝子変異をもっていると考えます。しかし、もう一方の遺伝子には変異がないため、ご病気として表れていないことが多いです(このような方を保因者と言います)。
常染色体劣性遺伝の場合、どちらの遺伝子にも病気の原因となる遺伝子変異があるため、お子さまには100%の確率で遺伝子変異が受け継がれます。ただし配偶者が遺伝子変異をお持ちでなければ、片方にのみ遺伝子変異がある状態のため、ご病気として表れていないことが多いです(保因者)。

受診に関するお問い合わせ TEL 049-228-3618 までご連絡ください。