大腸がんについて

大腸がんについて(患者様向)

はじめに

近年、わが国における大腸がんの増加は顕著であり、わが国における2014年がん統計(国立がんセンター調べ)では、がんの死亡数を臓器別に見ると、大腸がんは男性では肺、胃についで第3位、女性では第1位であります。また、がんの罹患数別に見ると、男女ともに第2位、男女計では第1位であります。

しかし、大腸がんは早期に発見できれば、内視鏡的切除や外科手術により完全に治すことが可能です。したがって、症状が出現する前に便潜血反応によるスクリーニングによって早期発見に努めることが重要であります。

大腸がんは大腸の粘膜から発生し、次第に深くに進展し粘膜下層、筋層、漿膜、漿膜外に達し、それにしたがい転移をしやすくなっていきます。転移部位は主に肝臓、肺、リンパ節、腹膜であり、がんの深さと転移状況で進行度が決まります。そのため、治療前には大腸内視鏡検査、注腸透視検査、超音波検査、CT検査、MRI検査、PET-CT検査などの検査をおこない、進行度を予測し、治療方針の決定の一助としています。また、個々の年齢、全身状態を考慮し最終的な治療方針を決定します。

手術治療においては、近年腹腔鏡手術が広く行われるようになってきており、当科でも腹腔鏡手術の件数が年々増加傾向にあります。また、大腸がんの中でも特に直腸がんの治療には患者の生活の質(QOL)を保つために、さまざまな工夫をおこない、人工肛門を造設することのない手術をおこなってきました。手術で治癒切除できた場合でも、再発の可能性が高いと考えられる場合には、術後補助化学療法、免疫療法等、十分な説明のもとにおこなっております。

大腸がんが進行して大きくなり、大腸の管腔を占拠してしまうことで腸閉塞となってしまう状態に対しては、従来は人工肛門の造設を含む緊急手術が不可避でありましたが、近年大腸ステント留置術が保険収載され施行可能となりましため、これを行うことにより緊急手術や人工肛門の造設が回避できるようになりました。

進行癌であっても手術可能な時期であれば、肝臓や肺へ転移していても、外科療法により完全に治癒が望める場合は、積極的に肝切除(当科でおこなっています)、肺切除(呼吸器外科に手術を依頼)をおこなっております。また、肺、肝臓、リンパ節や腹膜などに切除困難な転移を生じた場合は、手術だけでなく、化学療法や放射線療法(放射線治療部と共同して施行)をおこなっております。

以下に各々の治療法について説明します。

治療

当科における大腸がんの診療はおおむね大腸癌治療ガイドライン(大腸癌研究会編、2016年度版)に準拠しています。

①内視鏡治療

粘膜内にがんの増殖がとどまる場合(stage 0)、大部分は内視鏡治療で治癒します。わずかに粘膜より深い(粘膜下層の浅い層にとどまる場合)場合も粘膜内がんに準じた治療を行います。内視鏡治療をおこなった後、病理検査において、内視鏡治療前の診断より、深いところまでがんが増殖していたり、周囲のリンパ管、静脈管にがん細胞が認められたり、がんの分化度(がん細胞の顔つき)が悪い場合は、追加の手術が必要となってくることもあります。

②手術治療

内視鏡治療が困難な場合や、粘膜下よりある程度深く増殖するがん (stage I II III)に対する治療は、病巣を含む大腸の切除と周囲のリンパ節を取り除く(リンパ節郭清といいます)手術が必要となります。

近年大腸がんの治療に腹腔鏡手術が行われていることが多くなっています。腹腔鏡手術は通常炭酸ガスでおなかを膨らませ、モニターに内臓を描出し、鉗子を細い管を通して操作することで、従来の開腹手術と同等の手術を行うものです。右側大腸がんの場合には5-6 cmの臍部の創(病変を取り出したり、腸同士の吻合のため)と、他に3-4か所に鉗子孔となる5-10mmの創が追加されますが(左側大腸がん、直腸がんの場合には3cm程度の臍部創と、他に左右上下腹部に4か所の5-10mmの創となります)、従来の開腹手術であれば約20cmの創となりますため、術後の疼痛が少なく回復が早いことが利点としてあげられます。手術時間や術後合併症の頻度などは、腹腔鏡手術、開腹手術いずれにおいてもほとんど同等です。

しかし病状の進行度や、腹部手術の既往のある患者さんや(癒着が予想されるため)、出血傾向の著明な患者さんなどは腹腔鏡手術の適応とならない場合もありますので、術前に病状や手術方法を十分説明させて頂いてから、術式を決定しています。個々の病態にあわせて適格と考える手術法を提示させていただき、最終的に手術法を決めております。

※大腸癌治療ガイドラインの解説より引用

③直腸がんに対する手術治療

近年肛門に近い下部直腸がんに対しては、永久的な人工肛門を回避する超低位前方切除術(内括約筋切除を伴う)が普及してきました。早期がんでは上述するような腹腔鏡手術の適応となり、また、進行したがんでは術前に放射線治療や化学療法を併用することもありますが、かなり肛門に近いがんに対しても肛門を温存することが出来るようになりました。このような術式は一般には研究段階ではありますが、近年当科でも積極的に取り組んでいます。局所の再発率はきわめて低く、肛門を残しても安全な術式と考えています。直腸がんの手術では、直腸の周囲に多くの自律神経があることから、術後に排尿・性機能障害(男性の場合、勃起・射精障害)が起きることがあります。術前の画像診断を詳細に行い、可能であればこれらに関連する神経を十分残す手術を専門医が心がけて行っています(全自律神経温存術)。

gooヘルスケア 直腸がんの症状や原因・診断・治療方法と関連Q&Aより引用

大腸ステント留置術

2012年に大腸ステントが保険収載されてから、当科でも24時間対応で積極的におこなっております(当科は大腸ステント施行可能医が複数名おり、県内では2施設しかない大腸ステント安全手技研究会の前向き研究参加施設となっています)。特に左側大腸がん(S状結腸や下行結腸がん、上部直腸がん)に対しては従来から大腸がんにより腸閉塞を呈した場合には、人工肛門造設を含む緊急手術が標準治療でしたが、大腸ステントを留置することにより一時的に腸閉塞を解除することができるようになりましたため、緊急手術や人工肛門造設を回避することで患者さんのQOL向上に寄与しています。

※大腸ステント安全手技研究会ホームページより引用

術後の抗がん剤治療

手術のあとに抗がん剤、免疫抑制剤を使用することにより、再発を少なくすることが研究されています。がんの進行度によって抗がん剤、免疫抑制剤を使用したほうが、再発の危険性が低下すると考えられる場合、再発予防の目的で使用します(術後補助化学療法といいます)。点滴薬と内服薬の組み合わせや、内服薬のみ、点滴薬のみの治療など様々な治療法がありますが、患者さんにとってベストな方法を提案し相談した上で決定します。

⑥StageIV、再発に対する治療
肝、肺、腹膜、遠隔リンパ節などに転移がみられる患者さん(stage IVまたは再発)の治療も飛躍的に向上しています。特に大腸がんの化学療法は全てのがん種の化学療法の中でも、この10年間で最も目覚ましい進歩を遂げている領域です。

大腸がんの転移は転移巣が切除可能な場合には、切除することで良好な生存が得られることが分かっています。切除可能な肝転移は当科において積極的に切除しています。肺転移は呼吸器外科に手術を依頼しています。

手術以外の治療が望ましいと考えられる患者さんでは薬物治療(化学療法=抗がん剤)の治療が第1選択です。2005年にオキサリプラチンという新規抗がん剤が適応となってから、大腸がんの生存期間が飛躍的に延長しています。さらに近年では分子標的薬という、従来の抗がん剤と異なった機序でがんに作用する薬剤が開発されておりさらに生存期間が延長してきています(ベバシズマブやセツキシマブ、パニツムマブなど)。しかしこれらの分子標的薬は誰にも効果があるという訳ではなく、大腸がん細胞の遺伝子検査を行った上で、異常(変異といいます)のない場合でしか使用できません。大腸がんの遺伝子検査は年々進歩しており、日々新たな知見が得られてきているため、より効果のある治療が患者さん一人一人にオーダーメイドで提供できる日が来るのも近い将来です。

当科ではいわゆる世界の標準治療を患者さんに提供しています。2017年8月から外来化学療法室がリニューアルオープンし(専門看護師も常駐しています)、さらに患者さんにとって安全で安心な治療を提供できることと考えています。しかし抗がん剤治療については、副作用、医療費、通院などの問題もありますため、個々の患者さんにこれらの事柄について十分な説明をさせて頂き、他の薬剤での治療法を含めて提示した上で治療方針を決定しています。